労働文化研究院

思考の過程と飛躍の記録

佐藤卓著『塑する思考』を読了

とてもデザイナーが書いた本とは思えないくらい深い考察がされています。

デザイナーと言えども、モノの構造だけを考えていてはいけないのだと分かった。

題名にある「塑する」とは、塑性のことです。弾力性は衝撃をはね返し、元の形に戻ります。塑性は衝撃を吸収し、そのまま凹みます。粘土を想像してください。

世の中では、柔が剛を制すと言われるように、柔軟であることがよいこととされがちです。この時の、柔は弾力性を意味している場合がほとんど。

佐藤氏は塑性的なあり方を大切にしようと言います。学校教育の中でも、目まぐるしいスピードで動く社会にあっても自分を持つことを推奨する。そうではなく、流れの中で考え方やあり方を変えながら、生きていくことの肯定です。

優柔不断でどっちつかずなイメージですが、生物学的には僕たちの身体は昨日とは違う。それでも、昨日と同じ自分でいることができる。そんなあり方です。

また、佐藤氏は便利さをとことん疑ってかかります。『考えなければ気づかないではダメです。日常生活の中で、人はいちいち考えながら行動しているのではなく、物事に瞬間的に反応して、ほとんどの行為が無意識に起きている。そんな中に便利ウイルスはしたたかに入り込んでいるので、考えなければ、では、ぜったいに気づくわけがない』(P246)とし、常に便利さを疑う習慣を身につけることが大切と言います。

これは、文明批判をしているのではなく、便利すぎず不便すぎない=いかにもデザインしましたではいけない、というほどほどの部分を探し当てるデザイナーの視点から見いだされたものです。

 

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