労働文化研究院

思考の過程と飛躍の記録

佐藤雅彦著『新しい分かり方』を読了

巷には様々な情報で溢れています。ある対象物についてスマホで調べれば分からないことはありません。では、僕たちは対象の何を分かったのでしょうか。また、どうして分かったと言えるのでしょうか。
 この本は、自分がいかに「分かる」のかを客観的に知ることができます。謎かけのような写真や絵があり、その作品を鑑賞して著者の解説を読むという構成です。例えば、そこにはないと頭では理解していても、あるかのように体では感じてしまう。また、ある状態の前後を見ただけなのに、そこに至る過程を容易に想像することができる。このような分かる=認知のプロセスを体験できる画期的な本です。
 しかし、それだけで本は終わりません。解説によってある作品の意味が分かったとします。すると、分かったという爽快感を自然と感じます。では、分かった後に同じ作品を観たらどうなるか。分かる前と同じように見ることは不可能です。分かった=理解した=意味を知った自分の状態から逃れることは容易ではないことを実感するはずです。
 『新しい分かり方』に掲載されている作品からは、分かっていても分からない部分を感じざるを得ません。答えは分かるけど、答えに至るプロセスは分からないという分かり方もある。どんなに物事を緻密に理論化しても分からない部分がある(=プラチック)ことを体験できるすごすぎる本です。

 

新しい分かり方 佐藤雅彦|特設ページ|中央公論新社